2026年7月19日

健康診断で「血糖値が高めですね」「HbA1cが高いので一度受診してください」と言われたものの、
「まだ症状もないし、大丈夫だろう」
そう考えて、そのままにしていませんか?
糖尿病は、初期にはほとんど自覚症状がありません。しかし、気付かないうちに少しずつ進行し、将来的には脳梗塞や心筋梗塞、腎不全など重大な病気につながることがあります。
私はこれまで救急医として、多くの糖尿病患者さんを診療してきました。
その中には、「健康診断で何年も異常を指摘されていたけれど、忙しくて受診できなかった」という方も少なくありません。そして数年後、脳梗塞や心筋梗塞、重症感染症などで救急搬送される場面を何度も経験しました。
だからこそ私は、健康診断で見つかる小さな異常こそ、将来の大きな病気を防ぐチャンスだと考えています。
糖尿病は早い段階であれば、生活習慣を見直すことで改善できる可能性があります。一方で、放置すると治療が長期間必要になったり、合併症によって生活の質が大きく低下したりすることもあります。
今回は、健康診断で血糖値やHbA1cが高いと言われた方へ向けて、それぞれの意味や糖尿病の診断基準、受診の目安、今日からできる対策について分かりやすく解説します。
健康診断で血糖値が高いと言われたら放置してはいけない理由
血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の濃度を表す数値です。
食事をすると血糖値は上昇し、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きによって正常な範囲まで下がります。しかし、この働きが低下すると血糖値が高い状態が続き、糖尿病へと進行していきます。
糖尿病の怖いところは、初期にはほとんど症状がないことです。
そのため、「健康診断で少し高いと言われただけだから大丈夫」と放置してしまい、数年後に糖尿病と診断される方も少なくありません。
さらに糖尿病は、全身の血管を少しずつ傷つける病気でもあります。放置すると、目や腎臓、神経だけでなく、脳梗塞や心筋梗塞など命に関わる病気のリスクも高くなります。
健康診断で異常が見つかった時点は、病気を防ぐためのスタートラインです。「まだ薬を飲むほどではないから安心」ではなく、「今なら生活習慣を改善するチャンス」と前向きに考えることが大切です。
【ポイント】
・糖尿病は初期症状がほとんどありません。
・健康診断での異常は早期発見のチャンスです。
・放置すると全身の血管にダメージが蓄積します。
血糖値とHbA1cの違いとは?
健康診断では「血糖値」と「HbA1c」の両方が測定されることがあります。
この2つは似ていますが、意味は異なります。
血糖値は、採血したその時点の血糖の状態を表します。食事や運動の影響を受けやすく、その日の体調によって変動します。
一方、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、過去1〜2か月程度の平均的な血糖値を反映する指標です。
例えば、健康診断当日の血糖値が正常でも、HbA1cが高ければ以前から血糖値が高い状態が続いていた可能性があります。
逆にHbA1cが正常でも、食後だけ血糖値が大きく上がる「食後高血糖」が隠れていることもあります。
そのため、どちらか一方だけではなく、両方を合わせて評価することが大切です。
【ポイント】
・血糖値=採血した瞬間の血糖値
・HbA1c=過去1〜2か月の平均的な血糖値
・両方を合わせて評価することが重要です。
糖尿病と診断される基準
糖尿病は「少し血糖値が高い」というだけでは診断されません。
日本糖尿病学会では、次のような数値が診断の目安となっています。
【糖尿病が疑われる目安】
・空腹時血糖値:126mg/dL以上
・HbA1c:6.5%以上
・75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値:200mg/dL以上
一方、糖尿病になる一歩手前の状態は「糖尿病予備群(境界型)」と呼ばれます。
【糖尿病予備群の目安】
・空腹時血糖値:100〜125mg/dL
・HbA1c:5.6〜6.4%
健康診断で「経過観察」と書かれていても、「何もしなくてよい」という意味ではありません。
この段階で生活習慣を改善できれば、糖尿病への進行を防げる可能性があります。
血糖値が高くなる原因
血糖値が高くなる原因は一つではありません。
最も多いのは、食べ過ぎや運動不足、肥満などの生活習慣です。
特に、お腹周りに脂肪が付きやすい内臓脂肪型肥満では、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が起こりやすくなります。
また、加齢や遺伝も関係します。
ご家族に糖尿病の方がいる場合は、そうでない方よりも発症しやすいため、若いうちから生活習慣に気を付けることが大切です。
睡眠不足やストレス、喫煙、過度の飲酒なども血糖値に悪影響を及ぼすことが知られています。
血糖値が高くなる背景は、人それぞれ異なります。
食べ過ぎだけが原因とは限らず、筋肉量の低下、内臓脂肪の増加、運動不足、睡眠不足、ストレスなど、さまざまな要因が重なっていることも少なくありません。
当院では、単に血糖値の数値だけを見るのではなく、「なぜ血糖値が高くなったのか」という原因を患者さんと一緒に考えることを大切にしています。
【血糖値が高くなりやすい方】
・お腹周りが気になる
・運動不足
・甘い飲み物をよく飲む
・夜遅い食事が多い
・家族に糖尿病の方がいる
・健康診断で毎年少しずつ数値が上がっている
糖尿病の初期症状
糖尿病は初期にはほとんど症状がありません。
しかし、血糖値がかなり高くなると次のような症状が現れることがあります。
【こんな症状は要注意】
・のどが異常に渇く
・水分をたくさん飲むようになった
・尿の回数が増えた
・体重が減ってきた
・疲れやすい
・傷が治りにくい
・感染症にかかりやすい
これらの症状が出ている場合は、糖尿病がかなり進行している可能性もあります。
症状がないうちに健康診断で見つけることが、最も理想的です。
糖尿病になるとどんな病気が起こる?
糖尿病は「血糖値が高いだけ」の病気ではありません。
長年にわたり血糖値が高い状態が続くと、全身の血管が少しずつ傷ついていきます。
細い血管では、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害といった三大合併症が起こることがあります。
さらに太い血管では動脈硬化が進み、脳梗塞や心筋梗塞、足の血流障害などの原因になります。
救急医療の現場でも、「糖尿病が背景にあったため重症化した」という患者さんを数多く経験しました。
だからこそ、糖尿病は症状がないうちから治療を始めることが大切なのです。
【糖尿病でリスクが高くなる病気】
・糖尿病網膜症
・糖尿病腎症
・糖尿病神経障害
・脳梗塞
・心筋梗塞
・足の壊疽(えそ)
薬はすぐ始めるべき?
健康診断で異常を指摘されたからといって、すべての方がすぐに薬を飲み始めるわけではありません。
糖尿病予備群や軽度の異常であれば、まず食事や運動など生活習慣の改善から始めることが一般的です。
一方で、すでに糖尿病の診断基準を満たしている場合や、血糖値が非常に高い場合には、早めに薬物療法を開始した方がよいケースもあります。
大切なのは、その方の年齢や生活習慣、合併症の有無などを含めて総合的に判断することです。
自己判断で放置したり、サプリメントだけに頼ったりすることはおすすめできません。
今日からできる生活習慣の改善
糖尿病の予防や改善では、毎日の積み重ねが何より重要です。
まずは食事を見直してみましょう。
野菜やたんぱく質から先に食べること、甘い飲み物を控えること、夜遅い食事を減らすことだけでも血糖値への負担を減らせます。
運動は激しいものである必要はありません。
ウォーキングなどの有酸素運動を習慣にすることで、血糖値は改善しやすくなります。
生活習慣の改善というと、「厳しい食事制限をしなければいけない」「毎日ハードな運動をしなければいけない」と思われる方もいらっしゃいます。
しかし、無理なダイエットや急激な運動は長続きしません。
大切なのは、ご自身の生活スタイルに合わせて、無理なく続けられる方法を見つけることです。
当院では、必要に応じて体組成計を用いて筋肉量や体脂肪率、内臓脂肪レベルなども確認しながら、一人ひとりに合った改善方法をご提案しています。
【今日から始められること】
・甘い飲み物を減らす
・野菜から食べる
・毎日20〜30分歩く
・夜遅い食事を控える
・体重を少しずつ減らす
・睡眠時間を確保する
健康診断で異常を指摘されたら早めに受診しましょう
健康診断で血糖値やHbA1cが高いと言われても、「まだ症状がないから大丈夫」と考えてしまう方は少なくありません。
しかし、本当に大切なのは、薬が必要になってから治療を始めることではありません。
薬が必要になる前に生活習慣を見直し、将来の糖尿病や脳梗塞、心筋梗塞などを予防することです。
当院では、血液検査の結果をご説明するだけでなく、食事や運動、体重管理など生活習慣まで含めてサポートし、**「できるだけ薬に頼らず、生活習慣から健康を支える医療」**を大切にしています。
健康診断は、病気を見つけるためだけではなく、これから先も健康で過ごすための大切なきっかけです。
「血糖値が少し高いだけだから」と自己判断せず、気になることがあればお気軽にご相談ください。
早めの一歩が、5年後、10年後、そして20年後の健康につながります。
